道尾秀介最新作『I』を読み終えて…
集英社文芸単行本から発売された道尾秀介さんの『I』。発売前から話題でしたが、実際に読んでみると、期待を遥かに超える作品でした。独特の文体と、人間の心の奥底を抉り出すような筆致は健在。しかし、これまで以上に洗練され、言葉の選び抜かれた美しさに息を呑みました。
あらすじと作品の魅力
『I』は、ある事件をきっかけに自身の「I」という存在に疑問を抱き始めた主人公の葛藤を描いた物語です。自己とは何か、意識とは何か、そして人間とは何か…という哲学的な問いを、ミステリーの要素を交えながら深く掘り下げています。道尾作品らしい、不穏な空気感と、読者を飽きさせない展開の速さも魅力の一つ。
特に印象的だったのは、主人公のモノローグです。まるで自分の心の声が聞こえてくるかのような、リアルで繊細な表現に引き込まれます。また、登場人物それぞれの背景や心情が丁寧に描かれており、物語に深みを与えています。
競合作品との比較
道尾秀介さんの作品は、伊坂幸太郎さんや東野圭吾さんと比較されることが多いですが、『I』は、より内省的で哲学的なテーマを扱っている点が異なります。伊坂作品のような軽快なユーモアや、東野作品のような緻密なトリックはありません。しかし、それらを補って余りある、言葉の力強さと、人間の心の機微を巧みに表現する技術は、道尾秀介さんならではと言えるでしょう。
例えば、東野圭吾さんの『容疑者Xの献身』は、緻密なロジックとサスペンスで読者を魅了しますが、『I』は、読者の心に深く問いかけるような、より精神的な刺激を与えてくれます。
実際に読んでみての感想
私は、普段からミステリー小説や哲学書をよく読むのですが、『I』は、その両方の要素を兼ね備えた、非常にバランスの取れた作品だと感じました。読み終わった後、しばらくの間、自分の存在について考え込んでしまいました。
道尾作品は、一度読むと忘れられない、独特の魅力があります。もし、あなたが人間の心の奥底に触れたい、そして自己とは何かという問いに向き合いたいのであれば、ぜひ『I』を手に取ってみてください。
良かった点
- 言葉の選び抜かれた美しさ
- 人間の心の奥底を抉り出すような筆致
- 哲学的なテーマとミステリー要素の融合
- 登場人物それぞれの背景や心情が丁寧に描かれている
改善点
- テーマがやや難解なため、気軽に読める作品ではない
- 不穏な空気感が苦手な人には、おすすめできない
